行政書士法と弁護士法72条

 さて、みなさん一番関心のある行政書士法と弁護士法72条の関係について。 行政書士法第1条の二第2項には、「行政書士は、前項の書類の作成であつても、その業務を行うことが他の法律において制限されているものについては、業務を行うことができない。」とある。

 弁護士法72条には、「弁護士又は弁護士法人でない者は、報酬を得る目的で訴訟事件、非訟事件及び審査請求、再調査の請求、再審査請求等行政庁に対する不服申立事件その他一般の法律事件に関して鑑定、代理、仲裁若しくは和解その他の法律事務を取り扱い、又はこれらの周旋をすることを業とすることができない。ただし、この法律又は他の法律に別段の定めがある場合は、この限りでない。」とある。

 ここで、行政書士が業として扱える権利義務書類の作成とは、どこの範囲までになるのか。弁護士法との関係で、弁護士法72条「その他一般の法律事件に関して法律事務を取り扱う」の意味するところは何であるか、という疑問がわく。

 先の原稿で挙げた参考文献「詳解」35頁によれば、行政書士法を所管する総務省の公権解釈はこうである。「弁護士法72条は市井のあらゆる法律事務について弁護士ではない者による取扱いを禁止しているものではなく、一定の事件性を持ったものに限定して禁止していると解される。一般社会生活において取りかわされる契約書類の作成を法律判断を加えながら行政書士が行うことも、何らの紛議が予想されない限り弁護士法72条の禁止の対象外である」。

 弁護士法を所管する法務省の公権解釈も見ておこう。「弁護士法第72条の「訴訟事件…その他一般の法律事件」に関し、一般に、「法律事件」とは、法律上の権利義務に関し争いや疑義があり、又は新たな権利義務関係の発生する案件をいうとされるところ、同条の「その他一般の法律事件」に該当するというためには、同条本文に列挙されている「訴訟事件、非訟事件及び…行政庁に対する不服申立事件」に準ずる程度に法律上の権利義務に関し争いがあり、あるいは疑義を有するものであるという、いわゆる「事件性」が必要であると考えられ、この「事件性」については、個別の事案ごとに、契約の目的、契約当事者の関係、契約に至る経緯やその背景事情等諸般の事情を考慮して判断されるべきものと考えられる。」つまり、事件性がない法律事務については、弁護士法72条の規制対象外ということになる(条文の反対解釈から)。

 最後に、最高裁はどうか。最高裁もビルの集団立退き事案(平成22・7・20第2小法廷決定、判例時報2093号161頁)において、「法的紛議が生ずることがほぼ不可避である案件」だったことは明らかとして、本件は弁護士法72条にいう「その他一般の法律事件」に関するものであったと認定している。法的紛議が生ずることが不可避という、事件性必要説と親和的と解される。

 以上をまとめると、事件性・紛争性のない法律事務については、行政書士も扱えると解される(日行連の見解も同旨。「条解」45頁~50頁)。

●参考文献
「詳解 行政書士法第5次改訂版」、地方自治制度研究会編、ぎょうせい、令和6年3月25日発行

「条解 行政書士法第2版」、日本行政書士会連合会編、ぎょうせい、令和5年7月14日発行

AI等を用いた契約書等関連業務支援サービスの提供と弁護士法第72条との関係について、令和5年8月 法務省大臣官房司法法制部

https://www.moj.go.jp/content/001400675.pdf

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