行政書士法の射程:権利義務書類の作成とは?

 行政書士法の条文射程について調べたいときは、実際に行政書士法を所管し制定作業に従事する総務省の官僚メンバー(地方自治制度研究会)が執筆した基本書がバイブルになる(「詳解 行政書士法第5次改訂版」(以下、「詳解」という))。この本は、行政書士法に関するいわば日本政府の公権解釈が載っている本である。法令解釈を専権的に取扱う裁判所も、条文解釈の際には必ずまず公権解釈を参照する。それゆえ、公権解釈を押さえることが肝要となる。

 なお、行政書士法第1条の二第1項に定める「その他権利義務又は事実証明に関する書類」とは、「その他の―」ではない。つまり、法令用語としては「官公署に提出する書類」と「権利義務又は事実証明に関する書類」とは、並列であり、包摂関係にはなく互いに独立した関係にある(「条解 行政書士法第2版 日本行政書士会連合会編集」(以下、「条解」という))(条解30頁)。つまり、行政書士の作成する権利義務又は事実証明に関する書類は、官公署に提出する書類に限定されない。詳解27頁、及び30頁においては、さらに明快に「行政書士とは、①官公署に提出する書類」、②「権利義務に関する書類」、③「事実証明に関する書類」を作成する」、と明記し、3種類の書類を並列で明記している。また、これは明治の代書人規則第1条の規定をルーツとしていることが明記されている。

 なお、詳解31頁によれば、「権利義務に関する書類」とは、権利の発生、存続、変更、消滅の効果を生じさせることを目的とする意思表示を内容とする書類である。つまり、あらゆる一般の契約書作成がこれに該当する。これは行政書士法第1条の二第2項で弁護士法72条で定める業務の制限を受けるものの、非紛争的な契約書・協議書類の作成は弁護士との共管業務と解されている。つまり、非紛争的な一般の契約書・協議書類の作成は司法書士では行えないが、行政書士であれば行える。

 なお、弁護士法を所管する法務省の公権解釈によれば、いわゆる企業法務において取り扱われる契約関係事務のうち、通常の業務に伴う契約の締結に向けての通常の話合いや法的問題点の検討については、事件性がないとされている。この解釈に従えば、企業法務において取り扱われる契約事務は、多くの場合事件性のない非紛争的な業務であると言えるので、行政書士でも取り扱える業務と解される。

 近年、首都圏を中心に多くの規模の大きな行政書士事務所において、法務部等アウトソーシング(LPO)サービスを提供している所が見受けられる。これらの事務所では、このような見地からこれらの業務を受任しているものと考えられる。

●参考文献

「詳解 行政書士法第5次改訂版」、地方自治制度研究会編、ぎょうせい、令和6年3月25日発行

「条解 行政書士法第2版」、日本行政書士会連合会編、ぎょうせい、令和5年7月14日発行

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